「京の町家のおもてなし」京町家で伝統的に受け継がれてきた接客に関する習慣をご紹介します。

一口に「おもてなし」と云うても京都では迎賓館や茶道千家さん、高級旅館での国賓級の客人のおもてなしから、我々町家(職住一体の商家)での日常的おもてなし迄、それこそピンからキリ迄あると思います。ここでは京町家で伝統的に受け継がれて来たおもてなし(接客)の一例を御紹介させて頂きます。

大型店舗進出で小商売店が激減した上、最近は共働きサラリーマンや核家族が増え、それにともなってこの伝統的習慣も崩れて来ておりますが、商家では毎日がおもてなしの生活なのです。

末ず朝一番、小ざっぱりと自分の身形を整えてから、家族の朝食の用意と同時進行で(以前は家族や住み込み従業員等大勢おりましたので役割分担で)門口や玄関まわりの清掃整頓をします。

門の水播きは両隣とお向いさんに対して出過ぎず、けれど水くさくないよう(播く水の匂いのことと違いまっせ)我が門口より左右一~二尺余分に播きます。最近は舗装された道路が殆んどで土ぼこりも少く、節水もあってこの風習はすたれてきております。

前日の夕方、商売が終った時点で、桟拂い(叩き)と掃除機をかけておいた部屋部屋や階段、廊下、トイレ等は拭き掃除をします。着物をお召しになって見える客人が予定されている日は畳も空拭きします(客人の白足袋の裏がくろうなっては大事です)

玄関、座敷、トイレにはちょっとした生花を常時生けておりますが、花器に水を足したり、枯葉をちぎり取ったり、トイレの前の庭先の落葉を拾ったり、トイレのお手拭きも清潔に保てているか、気配りしておきます。

なんどき、どなたが見えても慌てんでもええように、お出しするお茶菓子や飲み物のあるなしも点検し、足らん時や予約の客人のある時は近所のお菓子屋はんや餅菓子屋へ買いに走るか、沢山注文する時は配達を頼んだりします。ついでに「※1おため」の在庫もしらべておきます。

毎日のこともあり、大体この程度、ざっと七分目で朝の準備はおしまい。たまに調子にのって手間暇かけていたら「いつ迄何をバタバタしたはるね、あんまりてんてん完璧にしたら、かえって気まずいおすえ」と天の声!

こうして、そこそこの準備でも出来ていると、こちらの気持にゆとりが出来、お客さんが何を求めて来て下さったのか、充分な接待を望んだはるのか、あるいは私共と共に気楽な癒の時間を持ちたがったはるのかお相手さんの気持を読み取る余裕も出て来るというものです。

「常が大事」「人見て法とけ」「臨機応変に」等々先人にたしなめられて参りました。
そして「サービスしているのを気附かれないサービスが最高のサービス」と教えられたことです。

だからお相手が急いだはる時やこちらが忙しい時は玄関先の敷居のはたで小座布団だけ出して「えらい端近なとこですんまへん」と堪忍してもらったりもします。ただ冬は手あぶり、夏はうちわ(今は小型のストーブや扇風機)を用意しておきます。

時分時になってもお尻が長い客人は「追い出し茶」を出されたり、「ぶぶ漬けでもどうどす」と云われたりいう話は有名ですが、生れてこのかたずっと京都暮らしの私共でもこの場面の記憶はないように思います。

要はお互い相手の身になって、心くばりしながら相手も自分も恥をかかずに心地よい時間と空間を共有出来た時、最高のおもてなしの満足が得られるのではないでしょうか。

京町家 意匠会議有志一同

※1「おため」とは?

「おため」は、京都で日常的に行われている習慣です。
たとえば、「多い目に作りましたので」と、お重に入ったちらし寿司などをご近所から頂戴した時、容器をお返しする時には、中に半紙を折ったものを敷き、その上にちょっとしたお返しとして「おため」というものを入れます。「おため」はお菓子だったりハンカチだったり色々です。
いただいたお心遣いに対し、こちらも感謝の気持ちを表す方法です。

結婚のお祝いなど、大きなお祝いの時にも「おため」をしますが、こちらはお作法にのっとってきっちりと行います。

いずれも、相手を思いやる気持ちから生まれたものですので、良い習慣として受け継いでいきたいですね。

町家暮らしの知恵を拝借

おばんざいのレシピや暮らしの知恵をご提供いただいている方々をご紹介致します。

京の町家 暮らしの意匠会議

京町家に伝わる知恵を今に伝えるべく活動されています。NHKの「ためしてガッテン」にも出演されました。

京の町家 暮らしの意匠会議

料理研究家 杉本節子

京町家で高名な杉本家に伝わるおばんざいを継承。料理研究家としても活躍されています。

料理研究家 杉本節子